『ルーム』

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あらすじ

施錠された狭い部屋に暮らす5歳の男の子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)と、母親ジョイ(ブリー・ラーソン)。彼女はオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)によって7年間も監禁されており、そこで生まれ育った息子にとっては、小さな部屋こそが世界の全てだった。ある日ジョイは、オールド・ニックとの言い争いをきっかけに、この密室しか知らないジャックに外の世界を教えるため、そして自身の奪われた人生を取り戻すため、部屋からの脱出を決心する。

 

 

 

90点

 

 

 

あらすじの通り、誘拐・監禁され望まぬ妊娠の末に狭い部屋で2人きりの生活を強いられている母子が脱出を試みる、というお話なんですが、それは前半部分に過ぎないんですよね。後半は脱出に成功した後の生活が描かれるのですが、ドキドキハラハラの前半、色々考えさせられる後半といった感じでしょうか。

 

 

私が中学生だった頃、テレビのニュースで同じような事件が放送された事がありました。どの事件だったかは忘れたけど「行方が分からなくなっていた女性が十何年かぶりに保護された」といった内容。その時隣で見ていたウチの母が「こんなの、今更見つかっても家族も迷惑やろなあ・・」とボソッと言ったんですよ。

我が耳を疑って母に真意を問い質したら「これだけ長い間見つからなかったら、家族だって亡くなったものと覚悟して生活してたと思うよ」と。当時はなんて無慈悲な!と、我が母親ながら唖然とした記憶があるのですが、ただそれも真実の一面を突いていると思うのです。

 

今回のような拉致監禁でも、あるいは冤罪によって不当に拘束されていた人などもそうだと思いますけど、隔離されていた期間が長ければ長いほど再び適合していくのにも大変な時間とエネルギーが必要になるでしょう。それは当人達だけではなく、彼ら彼女らを取り巻く身内の人間にとっても心身共に大きな苦難となるはずです。

 

まさにこの映画の後半半分は、いわばその「陰」の部分が描かれているんですよね。身勝手な第三者から見れば「めでたしめでたし」で済むお話でも、いやいやそんな簡単なこっちゃないよという。

世界に適合していくだけでも大変なのに、好奇の目に晒される一家。当たり前だけど元いた家族の置かれた立場や状況も、そのまま維持されているとは限らないわけで。おまけにジャックは「ルームの方が良かった・・」とか言い出す始末。だからこそ、後にジャックがバァバの愛情に気づきポロッと口にする台詞に涙してしまうわけですが(あのシーンはほんとやばかった)。でもジャックの気持ちも分からないでもないだけに、気持ちのやり場に困りましたよ。

 

それと、ジョイやジャックの場合はバァバとジィジが比較的裕福な家庭だからまだ恵まれている。でも、もし同じことが経済的に困窮する家庭に起こったら?というような事を考えていたら、果たして何が正解なんだろう・・とふと思ったり。誘拐犯が諸悪の根源である事は間違いないのだけど、あんなクソ野郎はチ○コ削ぎ落とした上で八つ裂きにされるべきだと思うそれで終わらせて済む話ではないところにこの問題の本質があるんじゃないでしょうか。

 

もう一点印象的だったのはなんといってもラストですよね。

再びルームを訪れたジャックとジョイ。ジャックの「縮んじゃったの?」という台詞で身体的成長を、開いた扉によって今は開かれた世界を、そして前回とは違い自らの意思でルームを去る決断によって真の意味で自由になった事を表現する、シンプルでありながら重層的なシーン。 

ここはDVDで何度でも見返したいぐらい素晴らしい。その後エンディング曲が流れ始めても劇場内は水を打ったように静まり返っていましたが、素晴らしい映画における特筆すべきラストだったと思いますよ。

 

前半はスリリングな展開を交えて観客を物語に引き込み、後半は一転深く考えさせられる作品。もっと薄っぺらいお涙頂戴系かと思っていたら、良い意味で完全に裏切られました。印象的なシーンや台詞が多すぎて上手く咀嚼出来た気がしませんが、今年最も心に残る一本になる事は間違いないと思います。